宮沢賢治幻燈館
「インドラの網」 11/11

          あをくじやく
「ごらん、蒼孔雀を。」さっきの右はじの子供が
 
私と行きすぎるときしづかに斯う云ひました。ま
 
ことに空のインドラの網のむかふ、数しらず鳴り
 
わたる天鼓のかなたに空一ぱいの不思議な大きな
 
青い孔雀が宝石製の尾ばねをひろげかすかにクウ
 
クウ鳴きました。その孔雀はたしかに空には居り
 
ました。けれども少しも見えなかったのです。た
 
しかに鳴いて居りました。けれども少しも聞えな
 
かったのです。
 
 そして私は本当にもうその三人の天の子供らを
 
見ませんでした。
  かへ        くさぼ
 却って私は草穂と風の中に白く倒れてゐる私の
 
かたちをぼんやり思ひ出しました。