宮沢賢治幻燈館
「インドラの網」 10/11

「ごらん、そら、インドラの網を。」
 
 私は空を見ました。いまはすっかり青ぞらに変
 
ったその天頂から四方の青白い天末までいちめん
 
はられたインドラのスペクトル製の網、その繊維
   く も                               ち みつ
は蜘蛛のより細く、その組織は菌糸より緻密に、
                                          ふる
透明清澄で黄金で又青く幾億互に交錯し光って顫
 
へて燃えました。
 
「ごらん、そら、風の太鼓。」も一人がぶっつか
            に         か
ってあわてて遁げながら斯う云ひました。ほんた
 
うに空のところどころマイナスの太陽ともいふや
        あゐ                              お
うに暗く藍や黄金や緑や灰いろに光り空から陥ち
                    たた
こんだやうになり誰も敲かないのにちからいっぱ
 
い鳴ってゐる、百千のその天の太鼓は鳴ってゐな
 
がらそれで少しも鳴ってゐなかったのです。私は
                          くら
それをあんまり永く見て眼も眩くなりよろよろし
 
ました。