宮沢賢治幻燈館
「グスコーブドリの伝記」 39/54

 ちやうどその時、山は俄かに怒つたやうに鳴り出し、ブドリは目の前が青くなつたやうに思ひました。山はぐらぐら続けてゆれました。見るとクーボー大博士も老技師もしやがんで岩へしがみついてゐましたし、飛行船も大きな波に乗つた船のやうにゆつくりゆつくりゆれて居りました。地震はやつとやみクーボー大博士は、起きあがつてすたすたと小屋へ入つて行きました。中ではお茶がひつくり返つて、アルコールが青くぽかぽか燃えてゐました。クーボー大博士は機械をすつかり調べて、それから老技師といろいろ談(はな)しました。そしてしまひに云ひました。
「もうどうしても来年は潮汐(てうせき)発電所を全部作つてしまはなければならない。それができれば今度のやうな場合にもその日のうちに仕事ができるし、ブドリ君が云つてゐる沼ばたけの肥料も降らせられるんだ。」
「旱魃(かんばつ)だつてちつともこはくなくなるからな。」ペンネン技師も云ひました。ブドリは胸がわくわくしました。山まで踊りあがつてゐるやうに思ひました。じつさい山は、その時烈(はげ)しくゆれ出して、ブドリは床へ投げ出されてゐたのです。大博士が云ひました。