蒲 松 齢(ほ しょうれい)作
聊斎志異(りょうさいしい)より
画 壁(がへき)
江西省の孟竜潭(もう りゅうたん)と朱孝廉(しゅ こうれん)という人が都に滞在していたときの話です。
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ある日、ふたりが散歩で通りかかった寺に、はいってみたことがありました。
住持の僧が着物を整えながら出てきて、ふたりを案内してくれるのでした。
寺には南宋時代の高僧の塑像があり、その両脇に壁画がありました。
壁画のひとつは「散華(さんげ)天女の図」で、朱がその絵の中で特にひかれたのは、十四五と思われる花を手にしたおさげの少女でした。
見ていると、朱にほほえみかけるようです。
孟と案内の僧侶が部屋を出たのにも気づかず、食い入るように見つめておりました。
そのうち、なんだか体が軽くなって浮き上がったと思うと、朱はふわふわと絵の中にはいっていったのでした。
朱が見まわすと、あたりには美しい楼閣がつらなり、この世とは思われません。
老僧を取り巻いておおぜいの僧が説教を聴聞している建物がありましたから、朱もそのうしろに立って聞いていました。
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