聊斎志異より 「香玉」 2/8

だいぶ近づいたところで赤い着物の女が立ち止まり
「ここに誰かいるようね」と言うのです。
そこで黄が立ち上がると、ふたりの女はそでをひるがえして逃げだしました。
黄は塀ぎわまで追いかけて来ましたが、いい香りが残るばかりで、ふたりの姿はありません。
あきらめきれずに、黄はそばの立木に詩を書き付けました。
  相思の苦しみは限りなく
  情を含んで短窓に対す
  恐る沙咤利(さたり)に帰すれば
  いずれのところにか無双をもとめん
沙咤利は他人の婚約者をさらった男、無双は王様が婚約者の男から取り上げた女の名で、共に昔の小説の登場人物ということです。
思いを伝えないうちに人のものになってしまったらどうしようということでしょうか。
 
部屋に帰ってふたりの面影をしのんでいると、ふいに白い着物の女がはいって来ましたから、黄は夢ではないかと喜んだのでした。


「あなたが詩人とは知りませんでした。先ほどはこわい人かと思って失礼しました。」
女は香玉と名乗り、一緒にいた赤い着物の女の名前を聞かれると
「姉の絳雪(こうせつ)です」と答えました。
道士にこの寺に連れてこられたということですから
「私がお力になろうではありませんか。名前は何というのですか、そのフラチな道士は」
「それにはおよびません。そんなにしつこくするわけではありませんし……それに、ここにいたので、あなたとも巡り会えたことですし」