Web 絵草紙
今昔物語より
「近江の国の生霊、京に来て人を殺せる語」
(あふみのくにの いきりやう、きやうにきて ひとを ころせること)
今は昔、京都から美濃・尾張の辺りに下る身分の低い男が
おりました。
夜明けに京を出るつもりでしたが、夜中に起きてしまった
のでそのまま出掛けたところ、何とかの辻で、青っぽい着
物の褄(つま)を取った(裾を引き上げた)女がひとり、
大路に立っているのを見掛けました。
『どういう女なのかな。こんな時間に一人でいるはずはな
い。男が一緒なのだろう』
男が、そんなふうに思って通り過ぎようとすると、
「そこのお方、どちらに行かれますか」と聞くので、
「美濃・尾張の方へ下る者です」
「それはさぞお急ぎでしょうが、ぜひとも申し上げたい事
がございます。しばらくお待ちください」
「どんな事でしょうか」と、男が立ち止まりますと、
「この辺りで民部の大夫、何々という人の家はどちらでし
ょうか。そこに行こうと思って、道に迷ってしまいました。
わたくしをそこへ案内して頂けないでしょうか」
|