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 「雨月物語」から
   蛇 性 の 婬
 家業の漁師には興味がなく、華やかな都や、み
 やびの道にあこがれる網元の次男豊雄。その隙
 に乗じ美女に姿を変えヒツコクつきまとう邪神
 人に知られぬ女盗人の語
 
 通りがかりの侍を呼び入れ、夫婦の関係を結ぶ
 美女。侍は不審ながらも夢のように暮らし、女
 はまた夢のように消えるという夢のような話。
 身貧しき男の去りたる妻、
  摂津守の妻と成れる語
 金もみよりも家も無い、どうにもウダツのあが
 らない男、ついに勤めもしくじり、再会を契っ
 て、相愛の妻と涙ながらに別れたのですが……
 清水の南辺に住む乞食、女を以て
  人を謀り入れて殺せる語
 お忍びで参詣の清水寺で行き会った美女に心を
 奪われた貴公子、文通を重ねて遂にその思いを
 遂げたのでしたが、女は何事か忍び泣く様子…
 人の妻 死にて後
  旧の夫に会へる語
 貧乏故に何の落度もない妻を捨て別の女と主人
 の任地に下った侍が、都に戻るや駆けつけた元
 の妻の家──月光に浮かぶ荒れ果てた部屋には
→Wwb絵草紙  灯火に影移りて死にたる女の語
 
 宮廷勤めの女たちが暗くなって灯りをつけたと
 ころ、別の室にいるはずの女の姿がその灯りに
 浮かび出た。灯心を短くすると影は消えたが…
 妻を具して丹波の国に行く男
  大江山にして縛られたる語
 妻をその実家に送って行く夫、途中で道連れに
 なった男の刀と自分の弓を交換するのですが…
 これを元に小説や映画にもなった有名なお話。
 正親の大夫、若き時鬼に値へる語
 
 間を取り持つ女の家が来客でデートの場に使え
 なくなり、不気味な古いお堂に泊まる事になっ
 た二人、夜も更けた頃、裏手から火影が射し…
 
 近江の国の生霊、
  京に来て人を殺せる語
 都を早立ちして東に下る男、街かどで出逢った
 生霊の道案内をする事になるのだが… 生霊と
 もあろう者が道に迷うなんてそんな間抜けな…
 羅城門の上層に登りて
  死人を見たる盗人の語
 
 羅城門の陰で人目を避ける盗人、そちら側から
 も人の来る気配に二階に登ると何やら火影が…
 外術を以て瓜を盗み食はれたる語
 
 同じような話が以前掲載した「聊齋志異」とい
 う中国の話にもありました。瓜と梨の違いがあ
 りますが時代から見るとこちらが先のようです
 中務の大輔の娘
  近江の郡司の婢と成れる語
 
 同じ物語の「身貧しき男の去りたる妻……」の
 逆、出世した夫が、落ちぶれた昔の妻に逢う話
 修行者、人の家に行き
  女主を祓へして死にたる語
 
 本能の欲望が宗教の戒めより強いのは当然、神
 仏に頼るより用心しなさいという、破戒僧の話
 近衛の舎人共稲荷詣でして、
  重方女に値へる語
 
 時代劇等では昔の女性は弱い立場に描かれます
 が、千年前のこの話では現代と変りありません
 陸奥の前司 橘 則光、
  人を切り殺せる語
 則光は思慮深い人とありますが、天皇の警護を
 さぼって女に逢いに行ったとか。その道は別で
 しょうか。この人は清少納言の夫だそうです。
 女、医師の家に行きて
  瘡を治して逃げたる語
 最高位の医師、典薬頭の屋敷に車を乗り入れた
 女。簾の内に入った医師が、はかまを下ろした
 女の股を見れば大切な所に命に関わる腫瘍が…
 祇園の別当 戒秀
  誦経に行はれたる語
 妻のもとに密かに通う大寺の事務長といった僧
 侶を、夫の国司が粋な計らいで懲らしめる話。
 この別当は清少納言の異母兄ということです。
 幡磨の国 印南野に
  して 野猪を殺したる語
 旅の一夜を野中の仮小屋で過ごす男、夜中に遠
 くから鉦の音や松明の灯りが近づくと、やがて
 前で葬式が始まったから生きた心地がしません
 平定文
  本院の侍従に仮借せる語
 
 ←噂の美女にふられた色好みの男、女をあきら
 めようと思い付いた奇抜なアイディアがこれ!
 時平の大臣
  国経の大納言の妻を取れる語
 
 叔父の老人から若い妻を頂く話。菅原道真を太
 宰府に左遷した人だけに策略に長けています。
 冷泉院の水の精、
  人の形と成りて捕へられたる語
 
 今も池などの残る上皇の住まいの跡地の町で、
 夏の夜、縁側に寝ていた人の顔に冷たい手が…
 愛宕護の山の聖人、
  野猪に謀られたる語
 
 修行の甲斐あって仏の出現を見た僧、なじみの
 猟師にも見せようとして、とんでもない事に…
 大蔵の大夫紀助延の郎等、
  唇を亀に咋はれたる語
 
 亀に唇を寄せるのは、かめと言っているような
 もの…。千年前にもこんな人はいたようですね
 兵立てける者、
  我が影を見て怖れを成せる語
 
 子供の泥棒の影が…と妻に起こされた武者気取
 りの夫、見れば刀を持った大男が震えています
 頼光の郎等 平季武、
  産女に値へる語
 
 源頼光は藤原道長に仕えた武将で、坂田金時な
 ど家来の四天王も有名、季武もそのひとりです
 陽成院の御代に滝口
  金の使に行きたる語
 
 くすぐったそうにする女を不審に思い、男が股
 間を探ると、そこに有るべき物が有りません。
 東人、川原の院に宿りて
  妻を取られたる語
 
 河原の院は左大臣源の融の屋敷で、後に宇多天
 皇が住まれた時、融の幽霊が出た話もあります
 染殿の后、天宮の為に
  にょう乱せられたる語
 
 「にょう」は一般向け漢和辞典にも文字があり
 ません。この話のような意味なのでしょうね?