Web 絵草紙
「近江の国の生霊、京に来て人を殺せる語」 2/4
 

 
「その家なら、ここから七八町ばかり先です。ただ、急いでいますので、お送り致しては私の方が迷惑いたします」
と、男が言うと
「ご無理でしょうが、とても大切な用事なのです。何とかお送りくださいませ」
女がそう言うので、男もしぶしぶながら案内して戻りました。
女が「とても嬉しいことです」と言ってついてくるのが、何とも不気味な感じがするのですが、気のせいだろうと思って、その民部の大夫の家の門まで送り、
「ここがその家の門ですよ」と言いますと、
「お急ぎのご用のところを、わざわざ戻ってご案内頂き、返す返すも嬉しゅうございます。わたくしは近江の国、何の郡の何がしという者の娘です。東へおいでなら、その道に近い所ですから、必ずお立ち寄りください。とても気がかりな事があってご無理をお願いしました」
女はそう言うと、門の前に立っていた姿が、かき消すように消えてしまいました。