Web 絵草紙
「近江の国の生霊、京に来て人を殺せる語」 4/4

その後、三日ほど経ってから旅立ちましたが、女の教えた所を通るとき『あの女の言ったことが本当かどうか確かめてみよう』と思い、教えられた屋敷の者に用件を伝えてもらいますと、確かにそんな事があったということで招き入れられました。
簾(すだれ)越しに対面した女は
「あの時のうれしさはいつの世にも忘れることはありません」などと、ご馳走したうえ絹や布などをあたえました。
男は大変恐ろしかったのですが、みやげ物を貰って、東へ下ったのでした。
 
生き霊というものは、自分は意識しないで魂が勝手に抜け出すものと思っていたのに、この話で見れば、何と、本人も自覚している場合もあったのです。
これは、その民部の大夫の妻が、夫に捨てられたことを恨み、生き霊となってとり殺したのでした。
そんな事なので、女の心は恐ろしいものだなどと、さまざまに語り伝えたということです。