Web 絵草紙
「近江の国の生霊、京に来て人を殺せる語」 3/4

 
 『なんと不思議なことではないか。門が開いていれ
 ばはいれるのも もっともだが、扉は閉じている。
 これはどうしたことだ』
 男は恐ろしさで髪の毛も太るようで、すくんだよう
 に立っているうちに、にわかに屋敷の中に泣き叫ぶ
 声が上がりました。
 耳をそばだてると、どうやら人の死んだような気配
 なのです。
 奇妙なこともあるものと、しばらくその辺をうろつ
 いているうちに夜も明けたので、明るくなってから
 その屋敷に勤めるちょっとした知り合いに会って、
 不審を晴らそうと様子を聞いてみました。
 「この頃、近江の国にいる女房の生き霊が現れると、
 ここの殿様が悩んでおられたが、明け方、『生き霊
 が出た』と言っているうちに、急に亡くなられた。
 してみれば、生き霊なんてものは、ほんとうに人を
 殺したりする力があるものなのだなあ」
 と、その人が語るのを聞いているうちに、男もなん
 となく頭痛がしてきて、
 『女は喜んでいたが、この頭痛も、生き霊に関係し
 たからだろう』と思い、その日は旅を取りやめ、家
 にもどったのでした。