Web 絵草紙
「中務の大輔の娘近江の郡司の婢と成れる語」 1/5
Web 絵草紙  今昔物語より
中務の大輔の娘
 近江の郡司の婢と成れる語

(なかつかさの たいふの むすめ
  あふみの ぐんじの ひと なれること)

 
今は昔、宮中の事務を担当する役所、中務省の次官という人がおりました。
裕福な家ではなかったのですが、一人娘を兵衛府の次官を務める男と結婚させ、何かとその人のめんどうをみてやっておりました。
婿も有難く思って暮らしておりましたが、父の次官が亡くなり、母も心細く思っているうちに、これもやまいで亡くなりました。
使用人たちも次々に辞めて寂しくなった屋敷で、娘は夫に向かい、
「親が存命のうちは何かと都合してお世話もいたしましたが、こんな暮らしになってはどうすることもできません。みすぼらしい身なりで宮仕えはできません。どうかよい方を見つけて身を立ててください」と言えば、男は
「どうしてあなたを見捨てられよう」

と、なおもその家に暮らしておりましたが、衣装なども見苦しくなるばかりです。
「よそに行かれても、思い出してくださったら、お便りなどしてください。こんなことでどうして宮仕えができましょう」と、女が強くすすめるので、男は心ならずも出て行ったのでした。