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その後、ただひとり残っていた召使いの少女も屋敷を出て、女はひとりきりになってしまいました。
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男も「いとおしい」とは言ったものの、別の家の婿になっては便りもなく、訪れることも絶えてしまいました。
それで、あちこち壊れた寝殿の片隅に、女はひっそりと暮らしておりました。
その建物の別の隅に住みついていた年寄りの尼さんが食べ物が手にはいると、女を気の毒に思って分け与えていましたが、女はそれにすがって年月を過ごしておりました。
荘園主の屋敷の警護当番に当たって上京した、近江国(おうみのくに)の郡司の息子が、その尼さんのところに宿を借りたことがありました。
若い男でしたから「退屈だからいい女の子を世話してくれ」と尼さんに頼みました。
「私は年老いて出歩くことも少ないので女の子は知りません。でも、この屋敷にはとても奇麗な姫君がひとりで暮らしておられますよ」尼さんが答えると、
「その人にぜひ紹介してくれ。そんなに心細く暮らしているのなら、国に連れ帰って妻にしよう」と、男は大いに乗り気です。
「そのうち、何かの折にお話ししましょう」と尼さんは何気なく答えておきましたが、男はそののちは顔を見る毎に「あの話はどうなった」と責めます。
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