Web 絵草紙
今昔物語より
「近衛の舎人共稲荷詣でして、
重方女に値へる語」
(このゑの とねりども いなりまうでして
しげかた をんなに あへること)
今は昔、二月の初午の日は、昔から京中の人が伏見稲荷にお詣りに集まる日ですが、例年より参詣人が多かった年がありました。
その日、近衛府の名前の聞こえた武士たちも、従者に食物、酒などを持たせて、連れだって参詣しました。
下社を過ぎ、中のやしろ近くにさしかかったところ、様々の人が行き交う中に、素晴らしい装束の魅力的な女が歩いてくるのに出会いました。
武士たちが連れだって来るので女は道をあけ、脇の木の陰に立っておりましたが、この連中が見逃すはずはなく、卑猥な言葉でからかったり、そばに寄って下からのぞき込んだりして過ぎて行きました。
中に茨田の重方(まつたのしげかた)という男は名高い女たらしで、その事で常に妻にねたまれていましたが、何とか言いつくろって過ごしておりました。
この重方がことに女に目を付け、近づいて何かと口説きますと、
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