Web 絵草紙
「近衛の舎人共稲荷詣でして、重方女に値へる語」 4/4

仲間達は「お見事! よくぞ、なされた!」「それだから、いつも言っているのだ!」と、妻を誉めたり、重方をけなしたりしていますと、
「おのれの憎たらしい根性は、この方達もしっかりご覧になったはずです」と言って、妻はようやく髷を放しましたから、重方は烏帽子のゆがみを直しながら、こそこそ上社の方に向かいました。
「おのれは、その想いを掛けた女の所へ行け! 私の家に来たら、必ず足をへし折ってやるぞ!」と、妻はその後ろから捨てぜりふを浴びせて、下社の方へ下りて行きました。

そうはいったものの、その後、重方が家に帰ってゴマすりにつとめ、妻の機嫌も直ったので、
「お前はこの重方の妻だからこそ、あんな派手な芝居ができたのだぞ」と、重方が言えば、
「黙りなさい、この愚か者が。盲人のように人の顔もわからず、声も聞き分けられずに、みっともない真似をして人に笑われるなんて、馬鹿の極みでしょうが」と、妻にも笑われる始末です。
後にはこのことが世間に知られて、若い貴族などにからかわれるので、重方は若い貴族を見掛けると逃げて隠れたりしたものでした。
 
その後、重方が亡くなって、女盛りとなった妻は別の男と再婚したということです。