Web 絵草紙
「陸奥の前司 橘則光、人を切り殺せる語」 1/4
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今昔物語より
「陸奥の前司 橘 則光、
    人を切り殺せる語」

 (みちのくの ぜんじ たちばなの のりみつ、
          ひとを きりころせること」

今は昔、陸奥の国司を勤めた橘則光という人がおりました。
武士の家柄ではありませんが、度胸があって思慮も深く、腕力も並はずれて強い人でした。
容姿も優れて、周囲の評判もよく、人から一目置かれておりました。
 
その人が若かったとき、近衛の武官で天皇の秘書官といった役も兼ねておりましたが、ある夜、宿直所を抜け出して女の所に忍んで行ったことがありました。
夜更けも近い頃で、太刀を下げただけで、そば使いの子供を連れて御所の東側の門を出、大宮大路を塀沿いに南に歩いて行くと、築地塀のそばに何人かの人がたむろしている様子です。

「これは、めんどうなことになりそうだな」と思いながら歩いて行きましたが、陰暦八月九日ほどの月は西の山の端に掛かり、塀ぎわは陰にはいって暗く、人ははっきりとは見えません。