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と、そちらから声がして、
「そこを行く者、止まれ。こちらには高貴な方がおいでになるぞ。挨拶なしに通るつもりか」
「そら来た!」と思ったものの、今さら引き返すわけにもいかず、早足で行き過ぎようとすると、
「さては、通り抜けるつもりだな!」と叫んで、走り寄って来る者があります。
陰にはいり、姿勢を低くして振り返ると、太刀は見えますが弓は持っていないので、いくらか安心して背を丸めるようにして逃げましたが、次第に追いついてくるようですから、このままでは頭を切られると思い、急に止まって脇に寄り、はずみで行き過ぎるのをやり過ごして抜き打ちに斬りつけると、賊は頭を割られて前のめりに倒れます。
「やった!」とひと息つくうちに、
「やりやがったな!」と、走り寄ってくる者があります。
刀をさやに収めるひまもなく、脇に挟んで逃げるのを、
「ちょこざいな!」と叫んで追いかけてくる者が、前のより足が速いようですから、
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「これは、先のようにはいくまい」と、急に体を固めてかがむと、賊はぶつかってひっくり返ったので、相手より早く立ち上がって、これも頭を切り割ってしまいました。
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