Web 絵草紙
今昔物語より
「幡磨の国 印南野にして
野猪を殺したる語」
(はりまのくに いなみのにして
くさゐなぎを ころしたること)
今は昔、西の国から京へ上る飛脚の男がありました。
ただひとり、道を急いでおりましたが、播磨(はりま)の国の印南野を行くうちに日が暮れてしまったので、夜を過ごす所はないかと見まわしたものの、人家に遠い野中のことで、それらしい場所もありません。
それでも、農作業に使うらしい粗末な小屋を見つけ、ここで夜を明かそうと、もぐり込んで腰を下ろしました。
度胸のある男で、身軽な旅支度に、護身用には刀だけを持っていました。
そんな場所なので着物も着たままで、横になることもなく、静かに座っていますと、夜も更けた頃、西の方から、鉦(かね)をたたき念仏を唱えながら大勢の人が来るらしい音が、かすかに聞こえてきました。
|