Web 絵草紙
「幡磨の国 印南野にして 野猪を殺したる語」 2/4

不審に思った男がそちらを見ると、たいまつを灯した人たちや、念仏を唱える僧たちの列が近づいてくるようです。 近くに来たところをみれば、なんと葬送の行列で、さらに小屋に近づいてきますから、気味の悪いこと限りありません。
小屋の二三十メートルばかり先に柩を置き、葬儀に掛かりますから、男は息を殺して見守り、
『もし見つけられたら、旅の者で、行き暮れてここを借りたことを、ありのままに言おう』などと考え、また
『葬送は夜が普通としても、その場所はあらかじめ用意を調えておくはずなのに、明るい内に見たときは何も備えがなかったのは不思議なことだ』
などと考えているうちに、多くの人が集まって葬儀を終えました。
それから鋤鍬(すき・くわ)を持った大勢の下人どもが塚を築き、卒塔婆を立てて作業を終わると、皆、帰って行きました。
男は、誰も居なくなってしまうと余計に恐ろしく、髪の毛も太る思いで、早く夜が明けてくれと念じながら墓を見守っていました。