Web 絵草紙
「幡磨の国 印南野にして 野猪を殺したる語」 4/4

長い距離を夢中で走り、ようやく見つけた人家の門の脇にうずくまって夜明けを待ちましたが、その間は実に恐ろしい思いをしました。
夜が明けて、男は出会った村人に昨夜の出来事を話したところ、不思議な話に、勇み立った若者達が多数集まり、「さあ、行ってみようではないか」というので男と共に現場に向かいました。
来てみると、昨夜の場所には墓も卒塔婆も無く、火の燃えた跡もありません。
ただ、大きな野猪(くさいなぎ)が斬り殺されて転がっていますから、皆不思議なことにあきれてしまいました。
たぶん、この男が小屋にはいるのを見た野猪が、おどかしてやろうと、たくらんだ事なのでしょう。
「つまらない事をして命を落とした馬鹿な奴だ」と、皆大騒ぎしたものでした。
 
そんな訳で、人里離れた野中などに、ひとりで泊まってはいけないということです。
男が都に上ってから話したのを聞き継いで、こんなふうに語り伝えたのでしょう。