Web 絵草紙
「人に知られぬ女盗人の語」 6/6

 

二三日かかる用事だったので馬と供の物をその家にとどめておいたのですが、二日目の夜、何となく外出するといったふうに馬を引き出し、そのまま戻ってまいりません。
明日帰るのにどうしたわけだ、と、探したのですが行方がわかりません。
仕方なく馬を借りて自分の家に戻ってみると、なんと家は跡形もなくなっております。
倉のあった所にも行ってみましたが、これもすっかり取り払われているのです。
これといって行き先をたずねる人もいないので、どうしようもなく、その時に初めて女の言葉に思い当たったのでした。

そんなわけで、男は仕方なく以前からの知り合いの家に世話になっておりましたが、習い性になってしまった盗みをはたらき、二三度に及ぶうちについに捕まって尋問され、このことをつつまず話したのでした。

これは不思議な話で、女は妖怪変化のたぐいででもあったのでしょうか。
一日二日のうちに家や倉を跡形もなく壊し、多くの品物を運び、従者を引き連れて立ち退くのに、それを見たという噂もその後聞くことがなかったのです。
また、命ずる事もなく行われた時間どおりの家事や出かける折りのしたくなど、二三年もその家に暮らすうちにこれと納得できる理由に思い当たることもありませんでした。
盗みの仲間についても、どこの誰ということは、まったくわかりませんでした。
ただ一度だけ、離れて立つ頭目らしい者のたいまつの火に浮かぶ顔が、男とは思えず色白で美しく、自分の妻にそっくりだと思ったことがありましたが、それもそう思っただけで終わったのでした。
これは何とも奇妙な話なので、このように語り伝えられたということです。
            (おわり)

次号は「人の妻死にて後旧の夫に会へる語」を予定しております。