水を入れた大きな盥を前に置くと、翁は首を伸ばし、盥の水に映る姿を見て 「わしは水の精なのぢゃ」と言うと、盥の水にざぶりと落ち、そのまま溶けて見えなくなってしまいました。 すると盥の水が増えて、縁から溢れ、縛った麻縄は結び目のまま、盥の水に浮いて揺れています。 人々はこれを見て驚き、不思議に思っていましたが、やがて盥の水をこぼさないように持って、池に流し込みました。 そののち、翁が現れて人の顔をさぐることはありませんでした。 これは水の精が人の形になって現れたものだと、皆が噂したということです。