宵のうちは何事も起こらず、夜中も過ぎたかと思われる頃、待ちくたびれて、つい、うとうとと眠ってしまいました。 夢うつつに顔に何か冷たい物の触れるのに、はっと目覚め、心に掛けて待っていただけに、飛び起きて相手を組み伏せ、縄で縛り上げて、縁側の手すりにくくりつけてしまいました。 屋敷の者に知らせると、みな集まってきて取り巻きました。
灯をともして見れば、身の丈三尺ばかりの、いかにも弱々しそうな翁(おきな)が縛り付けられて目をしょぼしょぼさせていて、何か問いかけても何も答えません。 しばらくして、翁は少し微笑みながら、あたりを見まわし、細く情けない声で 「盥(たらい)に水を入れてきてくださらんか」と言います。