Web 絵草紙
「愛宕護の山の聖人、野猪に謀られたる語」 1/4
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 今昔物語より
愛宕護の山の聖人、
 野猪に謀られたる語
 (あたごの やまの しやうにん、
   くさゐなぎに たばかられたること)

今は昔、京都の北西にある愛宕山(あたごやま)の宿坊にこもって修行する僧がありました。
ひたすら法華経を唱える修行なのですが、学識は無くて、教義を学んだことはありませんでした。
その山の西側に、鹿や猪を狩る猟師が住んでいましたが、この僧を尊敬していて、時々供物などを持って訪れていました。
ある時、しばらく訪問できなかったことがあって、久しぶりというので、果物、木の実など袋に詰め込んで坊を尋ねました。
僧も喜んで、その間の消息など話していましたが、そのうち思い付いたふうで、猟師ににじり寄ってくると

「この頃、きわめて貴いことがありますぢゃ。日頃、他の思いも無く、ひたすら法華経を読誦してきましたが、そのかいあってか、夜な夜な普賢菩薩(ふげんぼさつ)がお姿をお見せになりますぢゃ。今夜は是非、ここに泊まって、あなたも尊い御仏を拝んでゆきなされ」