Web 絵草紙
「愛宕護の山の聖人、野猪に謀られたる語」 2/4

「それは極めて尊いことです。それなら、今夜はここに籠もってお姿を拝ませていただきましょう」
と、猟師は坊に泊まることにしました。
そこには僧の他に弟子の子供がひとりいましたが、猟師が普賢菩薩を見たことがあるかと聞いてみると
「そうです。もう五六回ほども拝みました」ということです。
それなら自分も見ることができそうだと、猟師はその晩、経を唱える僧の後に座りました。
陰暦九月二十日過ぎのことで、長い夜を今か今かと待っていましたが、もう夜中も過ぎたかと思われるほどに、東の山ぎわが月の出のように明るくなってきました。
あたりは峰の嵐に吹き払われたように澄み渡り、坊の内も月光の満ち渡るように明るく輝きました。
やがて、白象に乗った普賢菩薩が降臨され、坊に向かって立たれた様子は実にありがたく、尊く見えます。
僧は感涙にむせび、何度もひれ伏して礼拝し、猟師を振り返って、
「あなたも、拝ませていただきましたか」