夜が明けて、菩薩の立っていたあたりの地面を見ると、多量の血の跡があり、それをたどって行くと、だいぶ下った谷底に、胸から背に矢の立った大きなクサイナギが転がっていました。 まだ嘆き悲しんでいた僧も、これを見ていっぺんに悲しみの心が醒めてしまいました。 そんなわけで、聖人といっても知恵のない者は、こんなふうにだまされ、殺生を仕事とする猟師でも、思慮のある者は化け物を見破ることができたのです。 それにしても、このようなけだものが、人をだまして身をほろぼすとは、何の益も無いつまらない事だといった話です。 (クサイナギ: 野猪と書かれていて、イノシシとかタヌキといった説があり不明)