Web 絵草紙
「大蔵の大夫紀助延の郎等、唇を亀に咋はれたる語」 1/4

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 今昔物語より
大蔵の大夫紀助延の郎等、
 唇を亀に咋はれたる語
 (おほくらのたいふ きのすけのぶの らうとう
   くちびるを かめに くはれたること)

今は昔、大蔵省に勤める五位で、紀の助延という人がおりました。
この人が備後の国(広島県)に用事で出向いた時、その滞在中に、浜で使用人たちに地引き網を引かせたことがありました。
引き上げた網に甲羅の幅一尺ほどの亀がはいっていて皆がこの亀をつつき回して遊んでいましたが、使用人の中に五十歳くらいのひょうきん者がいて、この亀を見ると
「ありゃ! わしの古女房のやつが、逃げたと思ったら、こんな所におったのか」と、甲羅の両脇をつかんで持ち上げました。