Web 絵草紙
「大蔵の大夫紀助延の郎等、唇を亀に咋はれたる語」 2/4

手足も首も引っ込めて、口の先がわずかに見えるばかりの亀を、幼児に「高い高い」をするように持ち上げ
「このあいだ『かめ子ちゃん、かめ子ちゃん』と川べりで呼んだのに、どうして出て来てくれなかったのさ、お前さんは…。何か月もずーっと恋いこがれていたんだよ。さぁ、キッチュしよう」
と、わずかに見える亀の頭に、とがらせたくちびるを近づけました。
男の口が近づくのを見て、食われると思ったのか、突然、亀は首を伸ばし、突きだした男の口にガキッと噛みつきました。
男は亀を引き離そうとしますが、上下の歯が食いちがって突き刺さっていますから、引っ張ればますます食い入って放すどころではありません。
男は手を開いて涙を流しながら何か言いますが、口がふさがっているので言葉はわかりません。