今は昔、源頼光(みなもとのよりみつ)が美濃の国司を勤めた時、ある夜、頼光に仕える侍たちが、館の詰所で雑談しているうちに、街道の川の渡り場に出るという産女(うぶめ)の話になりました。 夜、その川を渡る人があると、泣く子を抱いた女が現れ、「この子を抱いてくれ、抱いてくれ」と言うのだとか。 すると、中のひとりが 「誰か、これからその川を渡ってみないか」と言いました。 頼光の四天王のひとりで平季武(たいらのすえたけ)という男が 「俺なら、今すぐにでも渡って見せる」と言います。 「ひとりで千人の敵に向かうことは出来ても、幽霊相手ではまた別でしょう」 「なぁに、簡単に渡ってくるさ」 「いくら何でも渡れないよ」 と、言い合いになったあげく、反対する者十人ほどが「それなら賭けよう」というので、おのおの武具や馬などを賭ける約束をしました。