Web 絵草紙
「陽成院の御代に滝口、金の使に行きたる語」 1/5
Web 絵草紙
 今昔物語より
陽成院の御代に滝口
   金の使に行きたる語
(やうぜいゐんの みよに たきぐち
     こがねの つかひに ゆきたること)

今は昔、陽成天皇の頃に、道範(みちのり)という滝口の侍(宮中警護の武士)が、陸奥(みちのく)から都へ黄金を運ぶ使いに任命されたことがありました。

その道範が信濃の国で、ある郡司(現在の郡にあたる地域の長官)の家に泊まったのですが、天皇の使いということで大変な饗応を受けました。
饗宴が終わると主人やその郎等は、屋敷を一行の宿泊所にゆずって出て行きました。
旅先のことで、道範はすぐには寝付けず、何となくその屋敷を見歩くうち、郡司の妻の室とおぼしき所を覗くと室内はよく整えられていて、どこからともなく香(こう)のかおりがただよい、田舎にもこんな暮らしがあるのかと奥ゆかしく思われます。
それで、横になっている妻をよく見れば、ほっそりとして髪も美しく、どこといって欠点のない美人ですから、そのまま見過ごすことはできず、ほかに人気もないのを見て、そっと引き戸を開けてはいりました。