Web 絵草紙
「陽成院の御代に滝口、金の使に行きたる語」 2/5

歓迎してくれた郡司に申し訳ないとは思うのですが、女の魅力には抗しがたく、女の脇に伏しました。
女はさして驚くふうでもなく、扇で口元を隠した顔は近くで見ればいよいよ美しく、陰暦九月の初旬のことで衣装の重ねも少なく、素晴らしい香りが周囲を包むようです。

袴を脱いでそばに寄ると、女はしばらくは拒みましたが、それもひどく嫌がる様子は無く、やがて道範(みちのり)は女を抱き寄せました。
ところが、女がひどくくすぐったそうにするので、不思議に思った道範が自分の股間をさぐってみると、指に触るのは毛ばかりで、肝心の物がありません。
驚いた拍子に女の美しさもすっかり忘れて起きあがると、女はその様子を見て微笑んでいるようです。
ぼんやりと先の寝所に戻り、そこでまた探ってみましたが、やっぱりありません。
狐につままれたようで呆然としていましたが、やがて家来のひとりを呼び、
「あそこに見事な女が寝ているぞ。俺も今行ってきたが拒みはしなかった。お前も行って楽しんでこい」
そう言われるとその家来は大喜びで出て行きました。
帰ってきたのを見ると天を仰いで呆然としていますから『やはり、こいつも同じ事になったのだな』と思い次々と七八人の家来をやると皆同じ様子です。
 
何とも腑に落ちない事で、悩んでいるうち夜が明け、郡司への感謝も忘れて早々に出立しました。