Web 絵草紙
今昔物語より
染殿の后、天宮の為に
乱せられたる語
(そめどのの きさき、てんぐの ために
ねうらん せられたること)
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染殿の后は太政大臣藤原良房の娘で、文徳天皇の女御(にょうご)となった方です。
容姿は優れて美しい方でしたが、物の怪(もののけ)が憑いて正気を失うことが多く、高名な僧侶に加持祈祷をさせましたが、ほとんど効き目がありません。
その頃、大和の金剛山に修行する霊験並びない尊い聖人の名声を聞いて、天皇や父の大臣は、これに祈祷をさせようと使いを出しました。
聖人は何度か辞退しましたが、天皇の命には背けず、ついに御所に伺候しました。
祈祷が始まると后のそばにいた侍女のひとりに物の怪が移り、突然狂って泣き叫び出しました。
聖人がさらに呪縛を続けると、その女の懐から老狐が飛び出し、苦しんで転げ回ります。
聖人はそれを捕まえさせて教えさとし、后の病はその後すぐに治りました。
喜んだ父の大臣は、聖人をしばらく后の御殿に滞在させることにしました。
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