Web 絵草紙
「染殿の后、天宮の為に ねう乱せられたる語」 4/4

ある時、この鬼が人に取り憑いて「あの鴨継(かもつぐ)め! 必ず恨みを晴らしてやるぞ」と言いましたから、これを聞いた医師の鴨継は震え上がりました。
その後、幾らも経たないうちに鴨継は急死し、三四人いたその息子達も皆狂い死にしてしまいました。
天皇や父の大臣は高僧たちを大勢集め、鬼を鎮める祈祷をさせましたが、その効き目か、鬼は三か月ほども姿を見せなくなり、后の狂気も修まったようです。
喜ばれた天皇は久々に后の御殿を訪問されることになり、多くの宮人も同行し、いつもより趣の深い行幸となりました。
天皇は泣く泣く后に言葉を掛けられ、后もまたしみじみとお答えします。
と、その時、部屋の隅に例の鬼が現れ、几帳の中にはいりました。
天皇が驚き呆れてご覧になるうちに、后はいつも鬼に対するように、鬼に続いて嬉しそうに几帳の中にはいります。
暫くして、鬼は几帳から南正面に飛び出して来ると、続いて后も出られて、百官の居並ぶ前で性行為を始めましたから、天皇もなすすべが無く、嘆いてお帰りになったのでした。

こんな事があるので、高貴な女性はこのような法師を近づけるべきではありません。
これは畏れ多い話ではありますが、聖人法師といえども気を付けるようにと後の世の人に教えるために、このように語り伝えたのでしょう。