Web 絵草紙
「染殿の后、天宮の為に ねう乱せられたる語」 3/4

「先の願いの如く鬼になろう」と思い詰めた聖人、断食して十日余りで飢え死にし、希望どおりの鬼と化したのでした。
身の丈八尺ほどもあり、色は真っ黒け、目は爛々として、大きな口には剣のような歯が生え牙は上下にくいちがい、赤ふんどしに魔法の槌を差しています。

こんなのが突然后の御殿に現れたのですから、仰天した侍女たちは気絶する者、逃げ出す者、着物をかぶって震えている者など、大変な騒動です。
ところが、鬼にたぶらかされた后は、嬉しそうに身づくろいして鬼を見てにっこり笑い、二人で几帳の内にはいって横になりました。
鬼が「いつも恋しくせつなく思っていた」などと言えば、后は嬉しそうに笑いますから、驚いた女房たちは皆逃げ出してしまいました。
日も暮れる頃、鬼が立ち去りましたから、后はどうなってしまったのかと女房達が恐る恐る覗いてみると、何の変わったところもなく、そんな事件はどこ吹く風といった涼しい顔で居られます。
ただ目つきが少し険しい感じではありました。
 
天皇はこれを聞かれて、恐ろしさより、后の行く末がどうなるのかと大変心配されました。
その後、鬼は毎日のように訪れ、そのたびに后は正気を失って、鬼を愛しい恋人と見ているようですから、宮中の人達もこれを見て皆嘆き悲しんでいました。