今昔物語より
「人の妻死にて後旧の夫に会へる語」
(ひとのめ しにてのち もとの をうとに あへること)
今は昔、都に身分の低い侍が住んでいました。
いい勤め口もなく、長いこと貧乏暮らしをしていましたが、思いがけず何とかいう人が、どことかの国守に任命されました。
侍は以前からこの人を知っておりましたから、これを聞いて屋敷に行きますと、守(かみ)の言うには
「都でぶらぶらしているよりは私に従って任国に下れば、いくらかの面倒もみようではないか。これまでも気にかけてはいたが、自分も不遇の身でどうすることもできなかった。こうして赴任することになったので、お前を連れて行こうと思うが、都合はどうか」
「ありがたいことでございます」と喜んでお受けし、男は守に従って任国に下ることになりました。
男には何年か連れ添った妻がありました。
つらい貧乏暮らしではありましたが、年も若く、容姿も気だてもよい女でしたから、暮らし向きも気にせず、互いに離れがたく思い合っていたのでした。
ところが、遠い国に下ることになった男は、この妻を捨て、財力のある別の女を新しい妻にしてしまいました。
新しい妻は男に様々なしたくを整えてやり、男はその妻を連れて国に下ったのでした。