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国では何かと身入りがあって、暮らしは豊かになりました。
こうして満足に暮らすうちに、都に捨ててきたもとの妻が無性に恋しく、逢いたくなって
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「どうしているだろうか。はやく都に上って逢いたいものだ」と、身を削られるような思いがして、何事も味気なく過ごすうちに、いつしか月日も過ぎて、任期の終わった守(かみ)に従って男も京に帰ったのでした。
「自分は何の咎(とが)もない妻を捨ててしまった。京に帰り着いたらすぐにも行って、もとのように一緒に暮らそう」と思い詰めていましたから、京に着くなり今の妻を家に帰し、男は旅装束のままでもとの妻の家に駆けつけました。
門は開いていましたから、はいって見れば以前の様子もなく荒れ果て、人の住む気配もありません。
そのさまを見ればいよいよ物哀れに、限りなく心細く思われるのです。
陰暦九月もなかばのことで、月も明るく、冷えびえとして胸も締め付けられるようです。
家に上がって見ると、いつもの所に妻がひとりでいるきりで、ほかに誰もおりません。
男を見た妻は恨む様子もなく、嬉しげに
「いかがお過ごしでしたか。いつお上りになりましたの」と言います。
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