|
明るくなったのも知らずに寝ているうちに夜は明けて日が射してきました。
使用人もいないので上の蔀戸(しとみど=上下に分かれた板張りの格子戸。上を外につり上げて窓にする)がつり上げたままになっていて、日射しのまぶしさに驚いて目を覚ました男が見れば、抱いて寝ているのはミイラになった骨と皮ばかりの死体なのです。
これはどうしたことだと、その驚きと恐ろしさは言葉にもなりません。
脱いであった着物を抱えて縁先から飛び降り、もしや寝ぼけて見間違えたかと振り返りましたが、まぎれもなく死体です。
あわてて着物をつけて逃げだし、隣の小家に立ち寄ると今はじめて訪ねてきたような顔をして
「隣に住んでいた人はどこに行かれたとかお聞きでしょうか。あの家には誰もいないのですか」
|
その家の人が言うには
「その人は、何年か連れ添った夫が捨てて遠国に下ってしまったので、それを思い詰めて嘆いているうちに病気になってしまい、看病する人もなくてこの夏亡くなりました。葬る人もいないので、そのままになっているのを恐れて、はいる者もなく、家は荒れるままになっています」
と言うのを聞けばいよいよ恐ろしさは限りありません。
そんなわけで、どうすることもできずに立ち去ったのでした。
たぶん年来の思いに堪えられずに、魂が死体にとどまって夫と交わったのでしょう。
こんな不思議な事もあるものなので、そういった場合には前もってよく確かめるべきであると語り伝えたということです。
(おわり)
|