Web 絵草紙
「身貧しき男の去りたる妻摂津守の妻と成れる語」 1/4
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今昔物語より
「身貧しき男の去りたる妻
  摂津守の妻と成れる語」

   (み まづしきをとこの さりたるめ
       せつつのかみの めとなれること)

今は昔、都に、至って貧しい暮らしをしている、どうということもない男がおりました。
知り合いもなく、父母親類もなくて、住む所もありませんでしたから、人の家に使われていました。
といって、そこでも目を掛けられることもなかったのでもっとましな所でもあるかと、あちこち勤め先を変えましたが、どこも同じようなもので、勤めもしくじってしまい、なすすべもなく貧窮しておりました。
男の妻は年も若く、姿形もよく、気だても優しかったので、この貧しい夫にしたがっておりましたが、夫は悩んだ末に妻に言うには、
「世にあらん限りはこうして共に暮らそうと思っていたが、日に日に貧しさがつのるばかりなのは、もしや、ふたりが一緒にいることが良くないからかとも思われるのだ。別れてそれぞれの道に出直したらどうかと思うのだが」

「わたくしにはまったくそんなふうには思えません。何事も前世の報いなのですから共に飢え死にする覚悟でいればよいと思いますが、あなたには良くないことが続くので、本当にふたりが共にいるのが悪いのか、別れて試してみるのも仕方ありません」と、妻は答えたので、男もその通りだと思い、互いに再会を契って泣く泣く別れたのでした。