男は思いがけぬ賜り物に驚いて見れば、文字を書いた紙切れがあります。 開いて見ればこのように書かれてありますから、 「なんと! この人は私の昔の妻なのだ」と思えば、自分の運命が悲しく恥ずかしく思えて、 「お硯をお貸しください」と硯を借り、次のように書いて返したのでした。
きみなくて あしかりけりと おもふには いとゞ なにはのうらぞ すみうき 北の方はこれを見ていよいよ哀れに悲しく思ったのでした。
男は芦を刈らずに、走って逃げてしまいました。 北の方はこのことを人に語ることはありませんでした。
そんなわけですから、すべては先の世の報いであることを知らずに、人は愚かにも自分の不運を恨むのです。 これは、その北の方が年老いて後に人に話したのでもありましようか。それを聞き継いでこのように語り伝えたのでしょう。 (おわり)