Web 絵草紙
「身貧しき男の去りたる妻摂津守の妻と成れる語」 4/4

男は思いがけぬ賜り物に驚いて見れば、文字を書いた紙切れがあります。
開いて見ればこのように書かれてありますから、
「なんと! この人は私の昔の妻なのだ」と思えば、自分の運命が悲しく恥ずかしく思えて、
「お硯をお貸しください」と硯を借り、次のように書いて返したのでした。

  きみなくて あしかりけりと おもふには
     いとゞ なにはのうらぞ すみうき

北の方はこれを見ていよいよ哀れに悲しく思ったのでした。

男は芦を刈らずに、走って逃げてしまいました。
北の方はこのことを人に語ることはありませんでした。

そんなわけですから、すべては先の世の報いであることを知らずに、人は愚かにも自分の不運を恨むのです。
これは、その北の方が年老いて後に人に話したのでもありましようか。それを聞き継いでこのように語り伝えたのでしょう。
                 (おわり)