Web 絵草紙
「清水の南辺に住む乞食、女を以て人を謀り入れて殺せる語」 1/5
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今昔物語より
「清水の南辺に住む乞食、女を
 以て人を謀り入れて殺せる語」

(きよみづの みなみわたりに すむ こつじき、を
んなをもつて ひとを はかりいれて ころせること)

今は昔、名前はわからないものの、年も若く姿形も美しい、高い家柄の公子がありました。近衛の中将などという位の人でもありましたでしょうか。
その人がお忍びで清水寺に詣でたところ、上品な衣装の美しい女の歩いているのに行き会いました。
中将は女を見て「身分のある人が忍びで、歩いてお参りに来たのだろう」と思って、女の何気なく顔を上げたのを見れば、年ははたちほどのようです。
美しく魅力的なことは見たこともないほどすばらしいので、
「どういう人なのだろうか。こんな人に近づきにならずにいられようか」と、心を奪われて何も目にはいらず、女が本堂から出てくるのを見て供の少年を呼び、
「あの女の屋敷を確かめてくるように」と命じて後を追けさせたのでした。
中将が家に帰って待つうちに、供の少年が戻って来ました。

「確かに見とどけてまいりました。京ではありませんでした。清水の南の方、阿弥陀(あみだ)の峰の北にある家でした。たいへん裕福に暮らしているようです。供をしていた年配の女が、自分が後から来るのを見て「後をつけてくるように見えるが」と聞きますので、「殿が清水の御堂でご覧になられ、屋敷を見とどけてこいと命じられたので」と答えたところ、「こののち、もし参られることがあれば、私が取り次ぎましょう」と申しておりました」