Web 絵草紙
「清水の南辺に住む乞食、女を以て人を謀り入れて殺せる語」 2/5

中将は喜んで手紙を届けさせますと、女からは美しい筆跡の返事がありました。
こんなふうに、たびたび手紙をやりとりするうちに、
「わたくしはいなか者のことで、京などに出ることはないでしょうから、こちらにお越しください。すだれごしにでもお会いしましょう」との女の返事がありました。
喜んだ中将は女に会いたい一心で、侍ふたりと先の少年、馬の口取りだけを供に、暗くなってから馬で京を出たのでした。

屋敷に着き、少年をやって案内を申し入れると、先の供の女が出て「こちらにおはいりください」と申しますから、後についてはいり見まわせば、周囲は厳重に塀をめぐらし、高い門が立っています。
中庭には深い掘があり、橋が架かっております。
供の者は掘の外の建物に待たされ、中将はひとり橋を渡れば、中にはいくつもの建物があります。
客間らしい部屋があり、そこの開き戸からはいれば、中はよく調えられていて、屏風や几帳が立ち、きれいな畳が敷かれて、周りにすだれが下がっています。
このような山里ながら趣のある暮らしぶりを奥ゆかしく思っているうちに、やがて夜も更け、女がはいってきましたから、几帳の内にはいり共に臥したのでした。
こうして親しい仲になり、身近に見れば、そのかわいらしさは限りありません。
そんなわけで、中将は日頃の思いや、後々までの約束などを語るうちに、女は物思いにしずんで忍び泣きをしている様子です。