Web 絵草紙
「灯火に影移りて死にたる女の語」 1/4
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今昔物語より
「灯火に影移りて死にたる女の語」
 (ともしびに かげうつりて しにたる をんなのこと)

今は昔、女御(にょうご=(天皇の)位の高い妾)に仕える
若い女房がいて「小中将(こちゅうじょう)の君」と呼ばれ
ておりました。
姿形が美しく、気だてもよかったので、かわいらしい女と
して同僚の女房たちにも愛されておりました。
定まった夫は いませんでしたが、美濃の守で 藤原の隆経
(たかつね)という人が時々通ってきていました。

ある時、この小中将が女御殿に伺候していた留守に、夕暮
れ時に灯火をともすと、薄紫の衣に紅のひとえという衣装
から顔つき髪形など、何ひとつ変わらぬままの小中将が灯
火に浮かび出たのでした。
女房たちは「なんとよく似ていること」などと、これを見
て騒いでおりましたが、このようなときにどうすればよい
のかを知る年長の女房もいないままに、灯心を短くしたの
で灯りは暗くなり、影は消えてしまいました。