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「これは大変なことになったな」
大夫が困っていると、後の方からひとりの女房が出てきたようです。
不気味で恐ろしい気配なので、大夫は起きあがって、どうなることかと見ていると、女房は一間ほど離れて脇を向いて坐りました。
しばらくして言うことには、
「ここにはどういう人が居られるのか。いとも奇怪なことではある。この堂のあるじである我にことわりなく、どうしてここにはいったのか。昔からここに泊まった者はおらぬ」
という気配は、実に云いようもなく恐ろしいのです。
「私はまったく人がお住まいの所とは知りませんでした。今夜はここに泊まるようにと、ある者が申したので参りましたが、まことに申し訳ないことです」
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