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「すみやかに立ち去りなさい。出て行かなければ為になりませんよ」
女房がそう言いますから、大夫は女を助け起こして、汗みずくになって立つこともできない女を、むりやりに抱えて外に出ました。
歩けない女を肩にかけ、何とか頑張ってその主人の屋敷まで引きずって行き、門を叩いて中に入れ、大夫は自分の家に戻りました。
思い出すと髪の毛も太るようで気分も悪くなるので、次の日は日中も寝ていましたが、女が歩くこともできないほどだったのが気になって、夕方、例の手引きする女の家に行って様子を聞いてみました。
女が言うには
「その人は帰られてからも意識不明で、今にも死にそうでしたから『何があったのだ』などと人が聞いても答えることもありません。身よりもない人なので、主人もここで死なれてはと驚いて* 、外に仮小屋を造ってそこに運びましたが、間もなく亡くなられたということです」
*)現在も葬儀のあと塩で浄めたりしますが、この時代は特に死の穢れを恐れたようです。
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