第1回リアクションD1『不揃いな旋律〜破滅への跫音』より抜粋

川合 勇次郎マスター執筆

Scene.8 「死闘」より一部抜粋

 ――その頃。
 英雄たちをこの地に導いたカロンの部屋に来訪者がいた。魔導学院の生徒の一人である少女、ウァルハーリパル・エスタである。
 ウァルハーリパルには、戦いになる前にどうしてもカロンに話しておかなければならないことがあった。
「おはなしというのは……えるめすさんのことです」
 ウァルハーリパルが話したいのは、エルメスとエスターシャの関係についてであった。
 というよりも、エルメスの師匠であるカミューラとエスターシャの関係と言ったほうがいいかもしれない。
 魔導学院でレグルタ人の思想学と、神竜信仰との比較論を研究しているウァルハーリパル。カロンはそんなウァルハーリパルの素性を知り、大人しくその話に耳を傾けてくれた。
「えるめすさんやかみゅーらさんは、れぐるたのたみにとってはえいゆうのようなひとたちなんです」
 ……遥か昔に起きた「古代王国の叛乱」。
 その時、レグルタの民を守って立ちあがったカミューラと、最後の瞬間まで彼女に仕えたエルメス。彼女たちにしてみれば、エスターシャも同じレグルタ人である。
 だが、そんな彼女たちを封印したのは、他ならぬエスターシャなのだ。
 そんなエスターシャに封印される前、争いに破れ、同胞であるレグルタ人たちを破滅的に処刑されてしまったエルメスの恨みは、ウァルハーリパルにも深いと想像できる。
「……キミはどうやら魔女に同情をしているようだな。レグルタ人はかつて神の怒りをかった叛逆の民。エスターシャもそんなレグルタの一員だったのだろうが、彼女がそのエルメスやカミューラに対して行った行為には、わたしは何の文句はない」
 竜神族であるカロンは、レグルタに対しては決して好意的ではない。だがカロンに指摘された通り、ウァルハーリパルはカロンとは対照的にレグルタに同情的だった。
「なかまをたくさんうしなってしまったえるめすさんがなんでおこっているのか……わたしにはどうじょうしてしまうところがあります」
「確かに、仲間を失う事は悲しいことだ。それはわたしも認めよう」
「でも、えすたーしゃせんせいとえるめすさんのなかは、もう、とりつくろうことができないくらいにかいめつてきです」
 ウァルハーリパルはそこまで言って、少しだけ黙り込んでしまった。
「キミの気持ちもわかる。だが、もしエスターシャとエルメスが仲直りできたところで、現状はそれで解決できるような問題ではなくなっているんだ」
 あいかわらずの厳しい態度でカロンが言う。
「あのエルメスとか言う魔女は、世界を破滅に追いやろうとしている。かつてエスターシャに敗れ、その後共和国の兵士たちにレグルタ人を倒されたことを恨んでの行為だろうが……もし彼女が改心して、キミに一言謝ってくれたとしても、キミは彼女を許す事ができるのか? このセレスティアだけでも何万と言う人民の命が失われているんだぞ!?」
「……ゆるせるかどうかはわかりません。でも、きっとえるめすさんはかいしんなどできないだろうということはわかります」
 既にエルメスはレグルタの同胞を何万と殺されているのである。そんなエルメスが、こちらに謝る気持ちなど抱けるはずがないのだ。逆に「おまえたちこそレグルタに謝れ」というのがエルメスの意見だろう。
「だが、たとえばエスターシャがエルメスに謝ったとする。キミは、それでこの争いに決着がつくと思うか? 世界の破滅が食い留まると思うのか?」
「……おもいません」
「私も思わない。だからこそ私のような者がこの地に降臨させられたのだ」
「ちからでおさえこむんですね」
「そうやってどちらかが力を失わなければ、この争いは終わらない。キミたち人間が死ぬか、魔女が死ぬかだ」
 カロンの意見を、ウァルハーリパルは辛そうに聞きつづけた。もはやこの戦いはエスターシャにも解決できない問題だということは、ウァルハーリパルにもそう思っている。破滅を導こうとする魔女を食いとめられるのは、破滅を食いとめるために立ちあがる者たちだけなのかもしれない。
「キミは魔女や魔族と戦う決意ができていないのか? ……それなら明日はわたしの背後にいればいい。キミが他人を恨み、戦うということの愚かしさや悲しさを理解できるのならば、戦場は向いていないのかもしれないからな」
 カロンはそんな難しいことを言って、その後はウァルハーリパルの返事を待った。
 だが、ウァルハーリパルが何かを言い出す前に、正門の方が騒がしくなったことに気付き、カロンはウァルハーリパルと共に外の様子をうかがいに行った。

(中略)

 人造人間たちは手勢のオーガにすら気を使うことなく、魔導学院の敷地内に上級の火術魔法・爆炎弾(エクスプローダー)を立て続けに撃ち放ち、戦場を無差別に炎に包んでいった。
「無茶な……!随分と調子に乗っているようだな」
 その炎の中、ウァルハーリパルを守ってやりながらエスターシャと合流するために走っていたカロンが、人造人間たちの狂気じみた戦い方に苦い表情を浮かべる。
「えるめすさんはいませんかっ?」
「どうやら高見の見物を決め込んでいるようだ。だが今はここを脱出することに全力を注いだ方がいいぞ」
 カロンは周囲に群がるアンデッドモンスターの群を、竜神魔法の払魔で瞬殺してしまう。カロンの前では、下級のアンデッドモンスターでは存在しないも同然の扱いを受けてしまっている。
「リディア、人造人間を狙え!神の眷属たる力を思い知らせてやるんだ!!」
 カロンが上空に向かって叫ぶと、立ちのぼる炎と同じ勢いでリディアが上空に舞い上がり、手に持った細身の槍で人造人間の一人と立ち向かう。
 さらにペガサスに乗るイシュルーナが上空を駆け巡ることで人造人間の攻撃を食い止めることができたが、それでも人造人間の動きが速く、あまり長い間剣を交える事もできない状態が続いた。

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