ステラマリス・サガ 約束の地の探索者
第10回リアクションHA1

「前略、親愛なる君へ」より抜粋

榊大悟マスター執筆

Scene.2 「フライハイト・プランの末路」より一部抜粋

 アポイントをとってから二日後、フリッツマニングはエンタープライズ社本社ビルのどこか寂れた一角へと案内された。そこがフライハイト・プラン資料管理室であった。もっと企業機密的なものと考えていたフリッツは、アボイントが容易に取れたことにも驚いたが、その部門がたかだか数人で切り盛りされていることには驚きを隠せなかった。
「最近はなにもかもコンピューターで管理されているのでこれだけで充分なのですよ」
 と室長であるサニー・フラウは言った。
「随分とオーブンな堺所のようだが」
「ええ、希望とあれば一般の方でも閲覧できるようになっております」
「それはなぜ。普通なら独占しようとしてもおかしくない資料じゃないか。事実、エグゼクターはそうしてきた」
 サニーは微笑した。
「社も馬鹿ではありません。企業利益だなんだと言っていられる時代は終わったと言うことにも気づいてくれています。今は知りうる情報をオープンにして、最善の策を模索すべきときではないでしょうか」
「わたくしはむしろ反対したのですけどね」
 エレーナ・ローゼンバッハが言った。
「やがて人類がプランを必巽とするときまで隠蔽しておきましょうって。でも、多くの人の手でプランが更に素晴らしいものになるのだったら……お分かりになって? わたくし達がもっとも恐れるのはフライハイト・プランと言う私たちやユリア博士の生きた証を無に帰されてしまう事なのです」
「そいつは、分かる気がするな」
 ラウール・アムがモニターに向かったまま口を開いた。
「こうすれば、自分たちの戦いはいつまでも残りますからね」
 俺も誰にも読まれない新聞ならこんな仕事はすぐにも三下り半を突き付けるだろう。それが人の糧となり、やがては本人すらも忘れてしまった人生を構成する一ピースになることを知っているからこそ書き続けられるのだ。フリッツはそう納得した。
「万一の場合に備えて、フライハイト・プランを再開できるための準備も進めています。今はまだしばらく資料を整理するので手一杯ですが、来月には取りかかりたいと思っています」
「そうか、ユリア博士はもういないんだっけな」
 フリッツがしみじみと言った。そこらの週刊誌は一時期彼女を魔女だなんだと書き連ねていたが、フリッツにはそうは思えなかった。目の前にいる彼らを見ればなおさらである。
「私たち、博士がいつ房ってきてもいいように、いつだって準備を整えておくんです」
 アンリ・シャルパンティエが微笑んだ。
「それなんですがね、ご覧になりますか。博士の最近の映像です」
 ラウールがキーボードを操作して資料映像を呼び出した。そこは留置所の面会室だった。マリオン・ネットセレネ・ヴァイセナハトがユリアとガラス越しに話を聞いている。
「よくもまあ撮影の許可が下りたものだな」
「割とすんなり許可を貰えたなんて二人は言ってたけど、多分マリオンが袖の下を渡したんじゃないかとわたくしは思いますけどね。あの子、貴族の出なんですのよ」
 エレーナが呆れたように言った。モニターの中でセレネが話し始める。
『これは博士の立場から見たフライハイト・プランがどのようなものを記録し、多くの人に知ってもらうために行なうものです。ユリア博士、あなたはなぜこのプランを実行しようと思ったのですか……』
 ユリアの姿は多少疲れてはいたものの、以前と変わらぬ様子であった。いつも語ってきたこと、自分の中の正義、他人の中の正義、無常なる現実が次々とセレネとマリオンのインタビューによって語られていった。
『本日はどうもありがとうございました。きっとこの資料を世間に公開してみせます。それでは博士、お元気で……』
 マリオンがそう締めた。
「なあ、ここはオープンな部署だっていったよな」
 フリッツが呟いた。
「はい」
「この資料貰えないか。うちの社にも掛け合ってみるよ」
「そう言ってくださると彼女らも喜ぶことでしょう」
 そう言ってアンリはブレゼンテーンョン用に用意されていた映像データのコピーをフリッツに手渡した。
「ところで、他にご所望の品は?」
「ああ、そうだった」
 どうも調査の方を忘れがちになる。フリッツは思い切って言ってみた。
「フライハイト・プラン以降の動きを、エグゼクターに絞って知りたい。例えば、どのような計画が提案された、とか」
 サニーが少し戸惑った様子を見せたが、
「お待ち下さい」
 と言っていくつかの資料ファイルを持ってきた。フリッツはそのラベルを読む。
「『シビリアン・コントロール』に『ラスト・ノア計画』?」
 『シビリアン・コントロール』のファイルには『不許可』の判が押されていた。提案者はセレン・アステュート。とりあえず開いてみる。なになに、意識的に帝政を復活させ、市民の暴動をコントロール。伴い打倒帝政の目的を持たせ、サバイバルからバイタリティーを高めさせる?
 フリッツは頭を掻いた。ジエノサイダーとやらが推進していたJ計画と言うのがこんな感じだったか。なんとも狂的な計画だ。しかしながら、こんなことを考える提案者のことだ、また新たなる計画を立てては挑戦してくることだろう。案外こうした人間がぽろりと我々の盲点から手段を導き出してくるものだ。期待しようじゃないか。
 そしてもう一つのファイルを手に取る。『ラスト・ノア計画』、提案者はハーモニー・ジーンとなっていた。

「ここが『ラスト・ノア』計画のドーム?」
 冬も厳しい辺境で建築中の施設を見上げ、防寒具姿のスレイヴ・ドール、セリスタ・モデルノイツェンが尋ねる。
「そうよ。人類のデータや遺伝子を保存した最後の箱船。やがて人類が滅んでも、復活の日を望んで」
 ハーモニー・ジーンが答えた。冬の風は刺すように冷たく、容赦なく二人の額をなぶる。
「その管理者として.プランに使われたアヴニールがここに集められるわ。彼らなら何百年の先でもここを守り解けてくれる」
「あの子達が……」
 セリスタはドームを見つめて言った。
「ここにいてもいいかな。あの子達と一緒に、ここを守りたいの。メモリウムが尽きて、動けなくなるまで」
「そうしてあげてくれる? セリスタ」
 ハーモニーが小さく笑った。
「……セリスタ。あなたは自分の存在に自信が持てないようだったけど、だからアヴニールをいつも気にかけていたようだけど、信じて。私はあなた達スレイヴ・ドールが大好きよ。本当に」
「ハーモニー……」
 目を丸くしたセリスタをハーモニーが抱いた。
「暖かい。ハーモニー」
「大好きよ、セリスタ」

「ラスト・ノア計画か……」
 この虚ろなる未来の中で人も不安なのだ。それでも、自分達の存在を信じていたい。そう思う気持ちは間違いではない。
 しかし、これも違った。ついでと言うことで、サニー達にまだ社に在籍しているもとエグゼクターを紹介してもらって、フリッツは部屋を出た。
 しかし、確信できたことが一つあった。
 あの組織は、エグゼタターだ。
 勘のようなものだが、ここまで調べてきて彼らが今でもどれほど続くか分からない未来に真剣に取り組んでいる事が分かった。あの組織も恐らくは。
「あながち外れた線じゃねえさ。なあ相棒」
 先程からカメラばかりを相手にしていたマニングにフリッツが語りかける。しかし返ってきたのは、
「さてな」
 の一言であった。やれやれと肩をすぼめて二人はエレベーターへと乗り込んだ。

【NPC一覧】

【PC一覧】

●プレイヤー注釈

「私、ここにいてもいいのね」
 湧き上がる拍手。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
 ……というエヴァンゲリオンのTV版最終回を、つい連想してしまいました。
 補完されてしまいました。
 アヴニール部隊の生き残りを守って帝国政府と戦って死ぬ、みたいなアクションをかけた覚えがあるのですが、既に実験施設は壊滅していたそうで、手遅れだったそうです。

 HA1は「陰から帝都の平和を守り続けているらしい謎の組織」の噂を追う雑誌記者フリッツが、解散後のエグゼクターの様子を取材していく話。メモリウム枯渇に対処するための様々な研究を続けていたり、正義の味方として秘密裏に活動を続けるPCたちのその後が描かれています。第9回にも登場していたマニング・サスもフリッツの相棒として登場しています。
 HA2は、後日談的なHA1とはうって変わってシリアスな雰囲気。死刑宣告を受けようとしているユリア・フォルケンを、裁判所から救出しようとするPCたちの最後の死闘です。聖誕祭に湧く帝都を後目に、激しい銃撃戦で仲間たちが一人、また一人と死んでゆき、最後は包囲網を突破するため銃弾の雨の中に飛び込んでゆく、という壮絶なラストでした。裁判所の壇上で大見得を切るケーニヒ・ハルパニアさん(白爪さんのPC)とか、めちゃ格好良かったです。……こちらの話に参加したかった(笑)。

 最終アクションと一緒にプラリア(ページでこっそり公開しています)を送ったところ、ファイナルイベントでマスターから「これをもっと前に貰っていたら、もう少し違う描き方したのになあ」などという謎のコメントを頂いてしまいました。何か微妙にイメージが伝わっていなかった部分があったのかも。


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