ステラマリス・サガ 約束の地の探索者
第9回リアクションHA2

「出会い」より抜粋

榊大悟マスター執筆

Scene.2 「過ぎ行くもの、残るもの」より一部抜粋

 プラン始動まであと四十五分。
 展望室で警戒にあたっていたセレン・アステュートがセンサーに新たなる反応を見つける。
「接触まで十五分。何でしょう」
 ちらりと時計に日をやる。
 アイゼンヴォルフの増援にしては、タイミングが遅すぎると思う。エグゼクターは孤立している。妙だ。すぐに周囲の回線を拾ってみる。慎重にバンドを探る。
『アンゲルマ・タワー到達まで十五分を予定』
(捉まえた)
 バンドを照会する。
「なんてこと、これは……帝国軍のバンドではないですか。ユリア博士!」
 セレンの説明にユリアも状況を理解した。
「帝国軍の一部がプランの阻止のために動き出したと言うところね」
「国命でしょうか」
「いえ、きっと独断でしょうね。こんな時世ですもの。問題は」
「彼らならきっとタワーの破壊も厭わない」
 リィ・ロイがぽつりと言った。
「この時間ですもの。それに彼らにはそれだけの火力がある」
「そうですね」
「とりあえず、話をしてみましょう」
 リィが通信機を取った。バンドは先程のものを使用する。
「こちらアンゲルマ・タワー、フライハイト・プラン管制室。現在進行中の帝国軍、聞こえますか」
『こちちは帝国軍第三戦車中隊。聞こえている』
「進行の目的をお聞かせいただきたい」
『目的だと。人類最大の簒奪者に鉄槌を下す。それでは不十分ですかな』
「現在、アンゲルマ・タワー内部では民間人との交戦が行なわれています。下手な手出しはなさらぬのが賢明な判断と心得ますが」
『時間がないのでな、保障しかねる。民間人には訓告を行なう。以上だ』
(どうすれば……)
 リィはこんなときに何も思いつかない自分が嫌になった。思わずユリアの顔を見る。
 ユリアもまた苦悩していた。そしてただ一つ、彼女が決して出したくない結論を導き出そうとしていた。セレンからマイクを受け取る。
「こちらアンゲルマ・タワー、代表者のユリア・フォルケンです。降伏いたします。攻撃を取り止めていただきたい」
「博士、駄目っ」
 リィが慌ててマイクを奪う。
「私たち、絶対に持ち堪えてみせるから諦めないで」
「駄目よ」
 ユリアが小さく震えながら言った。
「勝ち目のない戦いに、これだけの人命を失うわけには行かないわ」
「博士……」
『残念ながら、降伏は認められない』
 スピーカーの向こうから、さらに非情な言葉が響いた。
「どうして!」
『我々の目的は、永遠に人類の尊厳を己が手に取り戻すことにある。その塔は危険なのだよ』
「馬鹿な!」
 通信は二度と繋がらなかった。
 ユリアはパネルに手を付いたまま動かない。
「プランを心を捨てぬものに変更しよう!」
 アレス・ヒューベリオンが叫んだ。
「超越化ではなく、人と自分を生かす、そんな活力を生み出すものに出来ないか」
 サイクロフト・アジャシオが言った。
「プラン自体を一時的なものにして、後に人類復活をもたらすプログラムを組み込むと言うのは」
 これはセリスタ・モデルノイツェン
「今になって……あなた方、正気ですか?」
 セレンは唖然とした。
「ねえリュティカ。私、間違っていたのかな」
 ユリアが呟くように言った。喧騒の中、システムの調整を続けていたリュティカ・テオシードが手を止めてゆっくりと振り返る。
「いや、未来は自ら作り上げるものです」
「…………」
「良き想いを信じてね」
「ありがとう、リュティカ」
 ユリアはきつばりと言った。
「プランを続行します。戦車隊の攻撃が予想されます。防衛に当たった部隊は重々警戒するよう。内部にいるものにもヴァンバイア・バットを持たせなさい。残り四十分、守り抜きますよ」
「了解」
 セレンはコンソールに向かい、各員に回線を開いた。
「了解」
 リュティカ・テオシードもまた、リアルリンク・ネットシステムの調整を再開する。
 まだ、道は見失っていない。

【NPC一覧】

【PC一覧】

●プレイヤー注釈

 アンゲルマ・タワー攻防戦。死力を尽くして戦うアイゼンヴォルフとエグゼクターの死闘。そこに帝国軍が水を差し、三つ巴の混戦に。
 死闘の末、ユリアを要するエグゼクター側が勝利を収めたかのように思えたものの、アイゼンヴォルフ側の一瞬の機転がそれを阻止。その瞬間に帝国軍の砲撃がタワーを襲い、全ては瓦解に帰すのでした。

 ハズしてます。全10回中、もっとも登場文字数が少なくて、影響力が少ないリアクションです。クライマックスでのこの失敗は痛い……。
 セレンさんの「今になって」という台詞にあるように、せめて8ターンで発言できていればもう少し(実現可能か否かを)検討できたかも知れませんね(負け惜しみ)。
 まあ、アイゼンヴォルフ、デチーソ、ジャーナリズム業界……を渡り歩き、結局自分のなすべきことはこれだ、という原点であるエグゼクターの元に戻ってくることができたのは良かったです。最期まで悪あがきして、プランの理想的なあり方を模索していたというのも、彼女らしい結末なのかも知れません。後悔のないアクションを選んだつもりなのですが……。

 リアクション前半、アンゲルマ・タワー内での銃撃戦シーンで、塔の内部に蝋人形館があることが判明……(笑)。東京タワーネタですね。


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