シスプリSS第1シリーズ 平安兄氏絵巻

ここは昔。
都に稀代の美少年有り。
そは天子の子息なり。
文武の才に富み、天衣無縫、その姿は路行く女将を虜にしたり。

天子はまた、彼の他に12人の妾腹の姫を設けたり。
姫達は健やかに育ち、いずれ劣らぬ女将になりけり。
ある姫は花を愛で、
ある姫は食に通じ、
ある姫は影を操り、
ある姫は書を嗜み、
ある姫は武に長じ、
ある姫は探り究め、
ある姫は機を製し、
ある姫は夢を語り、
ある姫は萬に等しく、
ある姫は体を鍛え、
ある姫は甘を食し、
ある姫は艶を磨くなり。

姫達の想いは一つ。『愛しの君(兄)と添い遂げること』。

今日こそはと、小さな胸を痛めます。
叶わぬ事とは知りつつも、愛しの君を待ち続けます。

兄と会う日は幸せいっぱい。
精一杯に甘えます。

それでは、これから始まる『平安兄氏絵巻』お楽しみください。


序の段 都の皇子

「ふう。これで今日の出仕も終わりだ。」

大きく伸びをして夕暮れの内裏から町並みを眺める貴族が一人。
彼の名は兄氏皇子(あにうじのおうじ)。都では知らぬ人はいない、時の天皇の嫡男である。
その姿は后の美しさを受け継ぎ、女性的な美しさを誇る。
だが、その容姿とは裏腹に、武道にも長じ、天下無敵の剣術『無限神灯流』の免許皆伝者でもある。

「皇子殿、本日もお疲れ様にございます。」

文机から立ち上がり、配下の文官達が頭を垂れる。

「じゃ、後は頼みます。」

皇子は軽く会釈をすると、職場を後にし、住まいである卿離宮に戻る。
例え天皇の嫡男と言えども、皇子は市井の生活を政に生かすため、内裏から歩いて1キロほど離れたこの館に居を構えている。
本来なら道行に衛兵がつき従うのが慣例とされているが、彼はこれを固辞して一人で出仕をしている。

それと言うのも、彼には腹違いではあるが12人の妹がおり、宮中及び市井の名家に教育、修行のために預けられており、定期的にその進捗の度合いを確認するとともに、妹達のご機嫌を伺うと言った目的も含んでのことだ。
本来なら妹達の方から参内すべきところであるが、彼はそう望まなかった。
妹達の本来の姿を知りたいと思ったからである。

当然、道すがらに行き交う人々の中には不逞の輩もいるわけで、そう言った者達には容赦なく自らの剣術をお見舞いすると言った状況に相成り、ほうほうの体で散会するのが落ちであった。
また、一方婦女子らは皇子の容姿に魅入られ、宮中はおろか、市井の者達も含めて彼の同好会を発足させてしまう有様。求愛の和歌や恋文の類いが彼の元に届けられていた。

当代随一の美少年皇子、それが『兄氏皇子』、彼の名である。

今日も夕暮れの中、12人の妹達の一人の屋敷に彼は歩を進めている。

「さてさて、元気にしているかな?」

これから会うことになっている妹の笑顔を思い浮かべながら彼は街を進む。

途中で買った手土産を手にして。

序の段 終幕。


あとがき

さてさて始まります平安兄氏絵巻、本編ではそれぞれの姫君達が登場します。

いったい如何なる物語が展開するでしょう。

時代は平安時代ですが、このお話は当時の時代考証なんぞまったく無視して進行いたします。こんな時代だったのか?なんて考えてはいけません。それがお約束と言うものです。

それでは本編をお楽しみください。