平安兄氏絵巻


段の十一 亞の里

は〜、亞里亞は〜、兄やとお話、したいの〜くすん・・・

小川の畔の小さな森に
ひっそり佇む屋敷がありました
住んでいるのは儚げな
お菓子が好きなお姫様
御付のじいやは怖いけど
兄やを想えばへっちゃらです
今日も亞里亞は・・・
やっぱり・・・くすん

亞里亞は〜おねむで〜夢を見ているの〜。

兄やと〜お遊びしてるの〜。とっても〜、とっても〜楽しいの〜。

お馬さんごっこで〜兄やのお背中に乗ってみたり〜

草の笛で〜ぴいぷう〜って。亞里亞、しあわせ〜。

兄やはとってもやさしいの〜亞里亞に怒ったり、しない〜。

ねえ兄や、兄やは亞里亞のこと、好き〜?

亞里亞は兄やが、大好き・・・

あれ?地震?ぐらぐら揺れてる・・・亞里亞、怖い・・・兄や、助けて・・・くすん

「・・・・様、・・亞様、・里亞様、亞里亞様、朝でございます。お目覚め下さい。」
「兄や、鬼が・・・亞里亞を・・・くすん・・・あ、じいや。」
「お目覚めですか、亞里亞様。お早うございます。」

寝惚けているのかいないのか、亞里亞にはじいやが大好きな兄やとの楽しい一時を邪魔しに来た鬼と、その姿を重ねて揶揄した。じいやと言えば、毎度毎度言われるのは辛いものがあるものの、ぐっと胸の奥底に仕舞い込み、職務に徹している。

「おはよ〜、じいや。」

体を起こし、上目遣いにじいやを見つめる亞里亞。実のところ、じいやはこの時の亞里亞の表情がたまらなく好きだったりする。寝乱れたくるくる巻きの髪の毛の具合と言い、軽く肌蹴た寝巻きの具合と言い、じいやはいとおしく思えて仕方がないのだ。
これ以上進むと18禁に指定されたり、児ポ法に抵触しそうなので話を元に戻す事にするが、とにかくじいやはあらゆることを犠牲にして亞里亞に尽くす、侍女の鏡のような人物である。

「じいや、今日は何日?」
「癸子の日でございます。」
「兄やが来る日〜でしょ?じいや。」
「そうでございます。ですからお着替えを。身なりを整えねば、兄や様に御目文字出来ませぬよ。」
「わあい。兄や。」

亞里亞の着替えを手伝いながら、じいやはふと別のことを考える。

(綺麗に着飾った亞里亞様をご覧になられた兄や様は、『綺麗な着物だね、じいやさんが見立ててくれたのかい?』とお尋ねになられ、そっと私の方をご覧になられるの・・・そして、私の手をそっと手に取りこう仰られるわ。『いつも亞里亞の為にありがとう。今度は余の為に着物を見立ててはくれまいか?』なんて・・・そうしたら私、どうしましょう・・・)

じいやと呼ばれてはいるものの、れっきとした齢19歳の女性である。亞里亞の兄やである兄氏と同い年、さらには御付の者に手をつける主君がいるのは当たり前のこのご時世、わずかな希望に胸躍らせるのも乙女心というものであろう。咲耶も春歌もびっくりな、有らぬ妄想に意識が飛んでしまったじいやの顔を、亞里亞は不思議そうに覗き込む。

「じいや、どうしたの?お顔、赤い。じいや、お風邪?」

じいやが倒れたら、身の回りのことをしてもらえなくなる事、特に大好きなお菓子を作ってくれなくなるのではないかということが心配な亞里亞。うんと背を伸ばしてじいやの額を触るが、熱がないことを確認し、安心して微笑む。

「だ、大丈夫ですよ、亞里亞様。さあ、お顔を洗って、御髪を直しましょう。」
「亞里亞、綺麗にしたら、兄やになでなでして、もらえる?」
「そうですね、頑張りましょう。亞里亞様。」
「わあい、兄やになでなで〜〜。」

亞里亞は嬉々としてじいやの言う事に従う。普段はわがままな亞里亞も、兄やの話題を絡めると、素直に目を輝かせる。この辺の飴と鞭の力加減は流石と言うほかない。

かくして、一刻の後、じいやの手によって完璧に飾られた兄氏凋落決戦兵器『妹亞里亞』が完成した。

(くっふっふっ・・・見ていらっしゃい。他の姉や様たちには申し訳ありませぬが、私が手塩にかけて育成したこの亞里亞様が、そして亞里亞様を育てた私が、兄や様を頂きますわ・・・・『頂く?』まあ、なんとはしたないふしだらな。)

来訪する兄氏を門前で待ちうけながら、じいやの妄想は、ハ○レスの某妄想(暴走)科学メガネっ子のごとく頭の中を駆け巡っていたのだった。

「じいや、亞里亞の出番、少ないの・・・くすん」
「あ、亞里亞様〜〜〜。」

亞里亞の涙にじいやの野望は脆くも打ち砕かれる事になったのは言うまでもない。


夢走り 手塩にかけて 磨きしの もゆる思いの その先は
姫の涙に 朧きしかな

段の十一 亞の里 終幕