Ghost Hunt

Scramble Wedding
#3
「ちょいと……、お嬢さん、一体誰の……子なんだ?」
 滝川が喘ぎながら訪ねた。他の一同も固唾を飲んでいる。
「誰って……だからあたしの子だよ」
「そーじゃなくって! ……相手は、誰なんだ?!」
 麻衣の肩を掴んで滝川は真剣な表情で尋ねる。
「ちょ、ちょっと、破戒僧……」
「なんだよ!」
「あ、赤ちゃんの顔見たら……、一目、瞭然……」
 言って泣いている優人を抱き上げ、綾子は優人の顔をみんなに見せた。
「お、……お前……だったのかよっ!!」
 滝川は輪から外れて立っていたナルの胸ぐらを掴みあげた。それでもナルは相変わらず冷静だった。
「……そうだ」
「そうだって……、お前、知ってて……。だから、だから麻衣を探さなかったって……」
「違う!」
「!」
 それまで苛つく程に静かだったナルが初めて激した。殴りかからんばかりの滝川も気勢を殺がれて目を丸くした。
「僕も……今日知ったんだ」
「今日って……、お前本当は麻衣の居場所知ってたのか?!」
「……」
 滝川の詰問にナルは眉根を寄せた。
「……麻衣」
「何?」
 しばらく考え込んだ後ナルは麻衣を呼び、「後は頼む」と再び輪から外れていった。
(こいつ、説明すんの面倒くさいんだ)
 麻衣は頬を引きつらせながら、それでも?マークを飛ばし続けているみんなに説明した。
「はぁーーーー」×6
 説明が終わり一同一様に長ぁ〜〜いため息を吐いた。
「……そーゆー事だったのか」
「うん……」
 滝川は再度深いため息を吐く。
「……で、お前ら一体これからどうすんだ? ナル坊よ
  わざと声を大にして呼ばれ不機嫌そうにナルは滝川を見た。
「一応、あちらで暮らすつもりだが」
「住むところは?」
「リンに出ていって貰えば済む話だ」
「……」
 呆れて一同はリンを見たが、当のリンは平然としている。恐らく最初に連絡を受けた時からそのつもりで居たのだろう。
「麻衣はいつ頃東京に戻るつもりですの?」
「……ナルが三日待つからその間に引っ越しの準備しろって……」
「三日?」
 真佐子の眉根がピクリと動いた。
「うん」
「って、あんた馬鹿ぁ?! 三日で引っ越しなんか出来る分けないでしょ!」
 額に青筋立てて綾子は麻衣を指さした。
「う……、だって、ナルが…」
「やってやれない事ではないだろう」
 相変わらずのナルぶりに一同はまたため息を吐いた。
「お前さんの性格って……久しぶりだとかなり堪えるな……」
「あっ、それあたしも思った!」
 意外な発言にナルは驚いて麻衣をみたが、当の麻衣は気付いていないようだ。
「もぉ〜相変わらず過ぎて、この先うまくやって行けるのかなぁ〜ってすんごい不安になっちゃったんだ、さっき」
「……」
 あはははと笑う麻衣に幾分思案気味のナル。
「だとよ、どうする? ナル坊」
「ふん」
「ま、今更お前の性格は変わらんわな」
「変わる必要なんてないじゃん」
 滝川の言葉に麻衣が当たり前そうに言った。
「なして?」
「ん〜〜、だって、性格変わっちゃったらさ、その時点でナルじゃないじゃん」
「なんだそりゃ」
「ナルはナルらしいのが一番ってこと!」
 麻衣が満足げに言うとナルを除く一同が「御馳走様……」と疲れた笑みを浮かべた。?マークを飛ばす麻衣に気を取り直して安原が尋ねる。
「あ、えっと、谷山さん。引っ越しの事はとりあえず脇に置いておいたとして、結婚式はどうするんです?」
「結婚、式?」
「ええ、そうです。愛し合う男女が永遠を誓い合う儀式です!」
「んな大袈裟な。でも………どうするの?」
「…何故僕に聞くんだ」
 問われてそのまま麻衣はナルに振る。振られたナルは眉根を寄せた。
「だって……」
「だってではございませんわ。しない訳には参りませんでしょう」
「ナルに文句は言わせないわよ」
「そうですよ、谷山さん。なんてったって、此処にいるメンバーで全ての形式の結婚式ができるんですからね」
「全て……?」
「はい、仏前、神前、キリスト教会(カソリック)、とってもバラエティーに溢れた結婚式になりますね」
 麻衣が首を傾げると安原は滝川、綾子、ジョンを順に指さした。
「安原さん、もしかして結婚式3回するつもり?」
「いえ、それは各宗教に対する冒涜になるでしょうから谷山さんがお好きな形式を選べば宜しいんですよ」
「まだすると決まった訳じゃ……」
 不機嫌なナルの言葉に綾子の一喝が下る。
「あんたは黙ってなさい! いい? なんだかんだ言ったって大体の女の子は結婚式を一度は夢見るものよ!」
「松崎さんがおっしゃると大変説得力がありますね」
「!」
「ま、ま、落ち着けよ。事は披露宴じゃなくて結婚式だ。ヤローは披露宴じゃパセリと大差ないが結婚式だと主役だからな。一応ナル坊の意見も採り入れんとな。まあ、麻衣と意見が食い違った時は全面的に麻衣の案を採ると言う事で……」
「素晴らしい民主主義の精神だな」
 滝川を睨め付けてナルは凄絶に不機嫌な笑みを浮かべた。だが、ナルがどう抗おうと流れは麻衣に向かっている。滝川、綾子、ジョンは麻衣にそれぞれの結婚式を売り込み始める。
「日本人ならやっぱ仏前だ。ほら、式にはきっと麻衣のご両親も来てくれるぞ!」
「馬鹿言ってんじゃないわよくそ坊主! 指輪の替わりに数珠なんて交換してられるもんですか! 大体日本人なら神前に決まってるでしょ! ね、麻衣、あたしが三三九度注いであげるからね! でもってばっちり披露宴もプロデュースするから!」
「あ〜、渋谷さんはキリスト教圏のお人ですし、イギリスから親御さん呼ばはるんでしたらやはり教会の方がよろしおすで? ほら、それに滝川さんにはヴァージンロードで谷山さんにエスコートするってゆう大役がおますやろ」
「うっ」
 すでに滝川はそのイメージに囚われているようだ。
「それに松崎さん。谷山さんのウェディングドレス見たいと思いまへんか? ウェディングドレス。女性の方なら一生に一度は袖通してみたい代物やおまへんか」
「……うう、み、見てみたい」
 ジョンの言葉はもはや説得と言うよりは悪魔の囁きに近かった。既に術中に落ちと見てジョンは麻衣に顔を向けた。
 麻衣とて数珠の交換はどうかと思うし、ナルの紋付き袴は怖い物見たさで見てみたい反面、見たくない気分もある。そしてウェディングドレス。やはりジョンの言うとおり憧れずにはいられないものだったが、やはりナルの意志を無視してまで結婚式を挙げる事には躊躇いがあった。
 望まれない結婚式に意味なんか無い。
 麻衣はそう思ってナルの顔を盗み見た。だが表情をチェックする前に視線があってしまい、慌てて俯いた。ナルはそんな麻衣の様子に深々とため息をつくと、
「僕は着物を着る気もパセリになるつもりもない」
と言った。
「……それって、タキシードだったら着るって事?」
 恐る恐るな麻衣の言葉にナルはふいっと顔を背けた。だが否定しないのだからOKなのだろう。
「結婚式、してもいいの?」
「……だからそう言ってるだろう!」
「一言も言ってないっての! ……ありがと、ナル。凄く凄く嬉しい!」
「……どう致しまして」
  全開の微笑みに嬉し涙まで浮かべて喜ぶ麻衣に、ナルは小さく微笑みを浮かべて応えた。
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