はじめちゃんが一番!
CHANCE!
 今年ももう2ヶ月を切ったある日の午後のこと。WEは新曲の振り付けの為にM2でレッスンを受けていた。今日のスケジュールはそのレッスンで終了だった。日も改まった頃、漸く納得のいく仕上がりを迎えた二人はさっぱりと汗を流して更衣室でくつろいでいた。
「あ! 和田さんと江藤さん発見! みんなぁ! 和田さんと江藤さんいたよ!!!」
がちゃりと扉が開いたかと思うとそんな賑やかな声が更衣室に響いた。
「「? なおと?」」
そう、声の主は岡野家五男のなおとであった。A.A.O.もレッスン中だったのかいつも通りの体操服を着ているなおとは息を弾ませながら二人を見つけて嬉しそうににっこり笑った。背後ではドドドドと廊下を疾走する足音が聞こえる。
「良かった! まだ帰ってなかったんだ!」
と、あつき。
「レッスン終わったら声かけようと思ってたら別室でレッスンするんだもん」
と、かずや。
「んもう、和田さん達いつまでたっても秘密主義なんだから」
と、さとし。
「まあ、それだけオレ達のことライバルと見てくれてるんだろうけどさ」
と、たくみ。
「追いつけ追い抜け引っこ抜けだもんね」
と、なおと。
「「………………………………………」」
そして、訳が分からない瑞希と亮。
「……どうしたの? なんかオレらに用なのか?」
亮がそう尋ねると五つ子はさも嬉しそうに大きく頷いた。
「和田さん達、この後時間空いてる????」
「ん? ああ、空いてるけどそれがどうかしたのか?」
「「「「「「あのね、あのね、今から小スタジオに来てくれる!?」」」」」
「小スタジオぉ???」
「「「「「うん!」」」」」
「「………………………………………」」
何のことだか判らずポカンとしているWEの二人だがこの五つ子が何か企んでいるのは間違いなかった。二人は顔を見合わせるとニヤリと笑みを浮かべた。
「オレ達二人の時間を拘束するたぁ豪気だな。つまんねぇ事だったら承知しねぇぞ!」
「「「「「うん! 楽しみにしてて!」」」」」
相変わらずの怖い物知らずな後輩達に二人はもう一度ニヤリと笑って見せた。
そして一行は人気のない小スタジオに到着した。
「何が始まるんだよ」
置いてあるスチール椅子に腰掛けて瑞希が挑戦的にそう尋ねると五つ子は緩んだ顔を引き締めて一同頭を下げた。
「んなっ?」
「どうしたのさ?」
「「「「「見てください!」」」」」
言うとあつきはオーディオを操作して何かの曲を再生させたようだった。5人が無表情に腕を組んでスタンバイすると二人の脳裏に引っかかる物があった。そしてイントロが流れ出す……。
「「あ……」」
と二人が同時に声を上げた。その曲は「CHANCE!」だった。
滑らかだが無機質な動き。暖かみを感じさせない無機質な表情。そして瞬きの後────。
「「「「「CHANCE!」」」」」
機械は人へと生まれ変わった。
「こいつら……」
完璧な同調。完璧な動作。完璧な音階。
五つ子という類い希なる武器を携えた5人はWEの「CHANCE!」をA.A.O.の「CHANCE!」に完全に昇華していたのだ。
どの箇所も危なげなく、難なくこなす5人の踊りをみて瑞希は片方の口角を、亮は両方の口角を上げた。
最後のトリプルターン。3年前は高熱に浮かされたさとしが転び、続いて4人がコテンコテンと転んだ箇所だ。
だが今回はなんの問題もなく完璧な形で終わった。
「「………………………………………」」
少しばかり荒い息をつく五つ子達は満面の笑みを浮かべて二人の前に詰めよった。
「どうだった!? 完璧だったでしょ!?」
「和田さん、オレ達がこの曲マスターするの3年掛かるって言ってたでしょ」
「だからね、僕たち3年掛からないように頑張ってたの!」
「そんな訳でえーと2年と9ヶ月?」
「漸く完成させました────!」
雁首そろえる五つ子達の目は一様に「ほ・め・て・」と訴えかけていた。
この過酷な芸能界の波に洗われながらも子犬のような眼差しに二人は思わず吹き出してしまった。
「「ぶっ……」」
「「「「「なんで笑うんだよ〜〜〜!」」」」」
「いや、悪い。……頑張ったなお前ら」
瑞希は笑いすぎて滲む涙を拭いながら暖かい笑みでそう言った。
「「「「「和田さん……!」」」」」
「……なぁんて言うとでも思ったか! 馬鹿やろう!」
「「「「「え?」」」」」
「このオレ様がライバル扱いしてやってるって言うのにちんたら3年も掛けてんじゃねぇよ!」
「瑞希、2年9ヶ月だよ」
相変わらず何気なくツッコミを入れる亮に「うるせえ!」と言い捨てて瑞希は泣きそうになってる五つ子達を見据えた。
「「「「「和田さん……」」」」」
「オレ達の今の曲知ってるな?」
瑞希の言葉に五つ子は大きく頷いた。
「あの曲、1週間でマスターしてこい。勿論、歌も踊りも完璧だぞ」
「「「「「えぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」」」」」
「瑞希!」
亮を押さえて瑞希は「それが出来たら……」と続けた。
「「「「「それが出来たら?」」」」」
「今のお前らじゃどう足掻いても真似できないようなカッコいいオレらを見せてやるよ」
瑞希の言葉に五つ子だけでなく亮も目を見開いた。
どれ程の自信が有ればこんな事を言えるんだろうか? その自信はどれ程の努力によって裏打ちされた物なのだろうか?
「「「「「〜〜〜〜〜〜〜〜オレ達、頑張るからね!!!!!」」」」」
鼻息も荒く決意を固めた五つ子達は早速AVルームにWEのビデオを借りに向かっていった。
「ダンボの羽か……」
小さなつぶやきは傍にいた亮にも届かなかった。
「瑞希?」
「いや、何でもない。さあ、亮、オレ達も頑張ろうぜ」
「うん!」
「今日はお前んちで作戦会議だぞ」
「うん。で朝はレッスンだよね」
「おうよ! あんなガキどもに追い着かれてたまるかよ!」
「うん!」
厳しさも優しさも、余りの瑞希らしさに亮は顔を綻ばせた。二人の行く先は何もなくて、二人の歩いた後には道が出来てる。そこを歩いてくる五つ子達。
道を造る役割は簡単ではないけれど手に入る物の大きさは計り知れない。

二人なら出来る────。

そう心から思い合って二人は歩き出した。 

おわり
お題「ち」でございます。
お題が決まった当初から「ち」はこれって決めてました。
五つ子の成長ってきっと著しい物なんだと思います。
そして逐われる側のプレッシャーも物凄いと思います。
でもWEもA.A.O.もゴールのない道をどんどこ歩いて行って欲しいなぁと思い書きました。
頑張れWE! 頑張れA.A.O.!
何はともあれ楽しんで頂ければ幸いです。